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2015年11月11日 (水)

TPPはチャンスではない! 日本の農業は確実に衰退する

TPPはチャンスではない! 日本の農業は確実に衰退する

ダイヤモンドオンライン 2015年10月26日掲載) 2015年10月26日(月)配信    

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TPPは日本の農業にとって本当にチャンスと捉えていいのか? [拡大]

2015年10月5日、12ヵ国によるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉が大筋で合意に達し、期待とともに数多くの懸念を生んでいる。日本国内の消費者として、農業と日本の「食」に関し、どう期待し何を懸念すべきなのだろうか?(フリーランスライター みわよしこ)

■TPPが確実に引き起こす日本農業の縮小

 2010年、菅直人首相(当時)がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加検討を表明して以後、TPPは議論と政争の題材になり続けてきた。2015年10月5日の大筋合意を受けて、特に多大な影響を受ける可能性が高いのは農業だ。

 TPP大筋合意の3日後に発足した第三次安倍内閣に関する報道には、農業への影響に注目したものが多く見られた。たとえば毎日新聞は、

〈TPPではコメや牛・豚肉、乳製品などで輸入枠の拡大や関税引き下げが決まった。海外の安い農産物が増えることも予想され、業界からは保護強化の声が強まるのは必至だ。森山農相は就任後の記者会見で「影響を精査の上、意欲のある農林業者が希望を持って経営に取り組めるようにする。一番影響があるのはコメだが(生産者に)迷惑をかけることはないと思う」と述べた。 (略) 今が日本の農業の分岐点とも言え、難しいかじ取りを迫られそうだ〉(安倍改造内閣:アベノミクス正念場 TPP対策が急務 毎日新聞 2015年10月08日)

 とレポートしている。
実際のところ、TPPの農業への影響、さらに農業への影響を通じた消費者への影響は、どのようなものになるのだろうか? たとえば「関税自由化」の結果を、どうイメージすればよいのだろうか?

 今さら口にしにくい素人質問の数々に対し、農業経営発展と社会の変動について研究している、柳村俊介氏(北海道大学・大学院農学研究院教授)にお答えいただいた。
 
――柳村先生、今日はよろしくお願いします。私自身は消費者の立場ですが、食糧の価格が下がることに対しては「助かる」という気持ちがある一方で、「本当にそれでいいのか?」という疑問も、食料自給率が下がることに対する危機感もあります。これからの近未来、向こう5年・7年の期間では、どのような変化がありそうでしょうか?

 今後どう動いていくのかは、政府の政策が出ていませんので、今の段階では何とも言えないところです。ただ、市場開放が進んでいくのは間違いありません。TPPだけではなく、EUとの経済連携協定(EPA)もあり、2015年末までの妥結が目標になっています。

――農業に対する直接の影響は、どのようなものでしょうか?

やなぎむら・しゅんすけ
北海道大学大学院農学研究院教授。1990年、農村集落再編の実証的研究で、北海道大学において博士号(農学)取得。酪農学園大学・宮城大学を経て、2011年より北海道大学教授。北海道をはじめ、各地の農村に通いながら、農業経営問題を中心とする農業経済学の研究を進めている。

 市場開放による農産物の輸入はこれまでも進んできましたが、TPP発効後は過去になかったほど一気に市場開放が進むことになりそうです。

――その市場化が全体として、農業に対してどういう結果をもたらすのか、都市部に住んで農業を目の前に見ない生活をしている人には、なかなかイメージできないと思います。私もそうです。

 市場開放を、政府は「ビジネスチャンス」と訴えたいのですが、日本の農業は縮小していくでしょう。現在の農業総産出額は、ピーク時の70%程度まで下がってきています。たとえば生産農業所得統計(最新データは平成25年[2013年])の農業総産出額(「全国推計統計表」「年次別農業総産出額及び生産農業所得」の「実額」)を見ると、平成25年(2013年)は8兆4500億円、最高を記録した昭和59年(1984年)の11兆7200億円の72%水準です。平成7年(1995年)に11兆台を割り込んで以降、農業総産出額は減少傾向をたどっています。

日本の農業が縮小していく
怖さの本質とは?

――しかし、大きな変化には「チャンス」という一面もあると思うのですが。

 もちろん、TPPと農産物市場開放を、政府の言う「ビジネスチャンス」と捉えて積極的な動きをする農業者も現れるだろうとは思います。でも、撤退する農業者がますます増えるのは間違いありません。結果として、農業の縮小に歯止めがかけられないどころか、拍車がかかることになるでしょう。

――農産物が安く買えることを歓迎する消費者はいても、食料自給率が下がることを積極的に歓迎する消費者は、あまりいないのではないかと思うのですが。

 最終的には、国民の選択です。農業者が「こうしよう」「こうしたい」と思っても、消費の動きには抗えませんから。TPPの影響で、直接に農業者が経済的な困難に陥るといったことを含めて、いろいろな問題が表面化するでしょう。でも、それらの問題はすべて、最終的には国民に降りかかってくる問題です。

――私はこの4年ほど、生活保護問題を中心に取材・記事化しつづけていて、消費者の「下級財シフト(より安価な選択肢があれば、そちらを選択すること)」は痛感せざるを得ません。消費者には目先の生活防衛のため、そうせざるを得ない切実な事情があります。

 もちろん消費者は、価格という点では、TPPの恩恵に浴することができます。市場開放すれば、為替相場など他の条件が変わらなければ、一時的には価格が下がります。ただ、それだけではなく、さまざまな問題があります。

――どういった問題でしょうか?

 最大の問題は、日本の農業が縮小すれば、海外に食糧を依存することになるということです。日本国内の農業なら、政府の政策として、「農業を保護する」「農業を保護しない」という選択ができます。国民は、選挙によって政権を選択し、間接的に日本の農業をコントロールすることができます。でも、海外の農業に対しては、日本国民はどのようなコントロールもできません。

――輸入する資金を確保できれば、何らかの手段で輸入を続けられる状況を維持できれば、それで済む、という考え方もありそうですが。

 日本は1億以上の人口を抱える大きな国ですが、ご承知のように既に食料の多くの部分を海外に依存しています。その日本が、さらに国内農業の基盤を弱めることになるわけです。他方、世界でつくられている農産物の多くは自国消費に向けられており、国際市場への出回り量は総生産量の一部に過ぎません。したがって、農産物の国際市場は安定的ではなく、様々なリスク要因を抱えています。こうした状況において、日本国民がコントロールすることのできる国内農業を維持することは非常に重要な課題になります。市場開放で国内の農業が縮小していくということは、日本人が自分たちの食糧をコントロールできない状況になっていくということです。日本国民が、食糧についての主権者でなくなり、「他人任せ」になることを意味します。

日本の豊かな食は、これからどうなる?

1935年に建てられた北海道大学農学部校舎は、大学事務局・大学附属図書館などが集まる一画にあり、夜も研究が続けられている Photo by Yoshiko Miwa

――しかし消費者としては、「お金があれば買える」という考え方に流れてしまいがちです。

 そうでしょうね。現在の日本は、世界的に見て、食糧という点では恵まれている国です。外国の農産物も、国内の農産物も、たくさん手に入ります。

――大都市圏の、特に住居コストがそれほど高くなく「食」に関して消費をしやすい地域では、庶民的なスーパーでも、確かに「よりどりみどり」の選択肢があります。そこでニンジンを買うとき、輸入された3本100円のものを選ぶか、千葉の名産地の1本100円のものを買うかは、懐具合しだいですが。

 日常的に手に入る食品や、日常生活の中での外食のバラエティについては、現代の日本人は豊かな食生活を送っていると思います。そういう日本の「豊かな食」は、ある種のバランスの上に成り立っていると思います。

――これからは、どうでしょうか?

 今後は、厳しいんじゃないかと思います。全国各地に多くの農業者や食品の製造業者が存在して、はじめて豊かな国産農産物や食品を、手にすることができるわけですから。高品質で多種多様な農産物・食品の製造は、少数の大手企業が得意とする分野ではないでしょう。

――「日本は小規模農家が多くて非効率だから競争力が足りなくなった」「企業が農業に参入すれば、現在の日本農業の問題は解決し、国内農業の維持は用意になる」という見方もあります。

 そう言われていますが、私は、積極的に参入する企業は多くないだろうと思っています。農村社会では、農地を維持するための多様な作業が、コミュニティによって担われていました。農地だけではなく、用排水路の手入れや道路の整備などのボランティア労働があって、農業生産の可能な地域が維持されてきたわけです。農業の衰退が農村社会の衰退につながると、農家はやがて農地の所有を断念するでしょう。企業がそのような農地を購入する場合、そのボランティア労働の部分は、地元の土木建築業者に委託するしかないでしょう。そうすれば、これまで表面化していなかった農地等の農業資源の維持費用が積み増しされます。「それでも農地を買いたい」という企業は、多くはないでしょう。

――しかし、この5年ほど、大手スーパーチェーンやコンビニチェーンが農業に参入しているというニュースを数多く目にするのですが。

 ほとんどは生鮮野菜です。コメは話題にはなりますが、現在のところ、農外企業が農家に取って代わる可能性は大きくはないと思います。企業が営む農場一つ一つの面積も小さく、農家一軒で対応できる程度の規模です。コンビニのフランチャイズと同様に、既存の農家が農地ごとフランチャイズ契約をしているイメージに近い場合もあります。

――農林水産省も、企業参入は促進したいようですけれども。

北海道大学農学部校舎のエントランスを入ったところ。歴史を感じさせる内装 Photo by Y.M.

 農業に真剣に取り組む企業には、期待したいと私も思います。でも、簡単ではないでしょう。プロ農家がもたない経営資源を、企業がもっているというわけではありませんから。ICT技術をフル活用しても、「農業のプロではない社員でも農業がやれる」を可能にするのが、精一杯ではないかと思います。農業に関しては素人の、普通の農家以上の技術を持っているわけではない企業の社員が、プロ農家を上回る生産性を実現するのは、非常に困難でしょうね。企業農業として伸びていくのは、農外からの参入企業よりも、農業者による起業タイプだと思います。

――そうすると、現在、農業に参入している企業にとっても、農業はビジネスとして有望というわけではなさそうですが。

 その企業にとっての合理性はあるんです。たとえば、大手スーパーチェーンは、食品リサイクル法で、店舗から出る残菜を処理する必要に迫られ、堆肥製造に向かいます。さらに、その堆肥を自社の農場で使うという循環が出来上がっています。でも、企業の農業参入に過大な期待をかけて、「日本の農業を起死回生させる」のは難しいと思います。そんなに多くのことを期待できる状況ではありません。

――農業を甘く見すぎている、ということなのでしょうか?

 いえ、農業に参入している企業は、真剣です。農学部新卒の学生を採用して、意欲のある若い人材を集めている企業もあります。大手スーパーチェーンだと、販路も確保されているわけです。「自分たちのビジネスモデルを作ろう」という懸命さは感じますし、おそらく可能でしょう。しかし、それは「日本の農業改革に直結」ということにはならないでしょう。到達点は「素人でも一生懸命やれば今までの農家に近いことができる」ではないかと思います。

――これまで知らなかったこと、想像もしてみなかったことばかりで、驚くばかりです。一消費者、一日本国民として、何ができるのかという無力感も覚えます。

 今、政府は食料自給率について、45%という目標を掲げています。民主党政権時代は50%でしたが、いずれにしても容易に実現できる数字ではありません。その目標に近づくためには、農業者が農業を維持できるように、農業を保護するための交付金が、どうしても必要不可欠です。その交付金の財源として関税が充てられています。でもTPPで関税が撤廃、削減されると、一般財源を持ち出さざるを得なくなります。それに国民が納得するかどうか。

――「日本の特殊性」とも言われますが。

 農業の保護は「日本だから」ではなく、先進国は同様です。ただ、市場開放の圧力の下で自国の農業を保護することは、どの国でも難しくなってきていますが。

北海道大学農学部内の至るところに、自然をモチーフにした展示物がある。この展示は鮭がテーマ Photo by Y.M.

――食料自給率を下げないために、何が可能でしょうか?

 多くの人が「共感」できる農業を追求することが重要だと思います。つまり、あるべき農業のヴィジョンを掲げて実現していく動きを、農業者・消費者ともに作っていくことでしょう。今後も、農業への財政投入は、必要である以上、続くでしょう。そのことが農業者と消費者の分断につながらないように、共有できるヴィジョンを掲げ、その実現をはかることが大切ではないでしょうか。

――互いに姿の見えない今の状態から「共感」までは、かなり時間がかかりそうです。

 今、消費者は、自分たちの食糧を自らコントロールするという意識を高めるべきです。何度も言うように、国内農業でないと、コントロールはできません。「自分たちが食糧の主権者である」という意識を、日本人が持てるかどうか。その意識を動きに変えられるかどうか。これは、国民的課題だと思っています。

――知らなかった数多くのことに目を開かされ、これからできるかもしれないことに希望を持てる気持ちになってきました。本日は、ありがとうございました。

(以上、ダイヤモンド社HPより転載)

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