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2015年12月24日 (木)

日本IBM「社外秘リストラマニュアル」の全貌

日本IBM「社外秘リストラマニュアル」の全貌

東洋経済オンライン 12月24日(木)6時5分配信    

 「今後、社内であなたに与えられる仕事はありません」

 会社から突然こう言われてしまったら、途方に暮れてしまう人も多いだろう。仕事がなくても出社するだけで給料がもらえる、「働かないオジサン」としてのポジションを残してくれるなら、ある意味、素晴らしい優良企業だ。しかし、グローバル市場での競争が激しい昨今、そんな砂糖にハチミツをかけるような話はレアと言える。

【写真あり】これが退職勧奨マニュアルだ!

 12月9日、日本IBMの50代の男性社員が、退職勧奨を繰り返されたことでうつ病になり、労災認定を受けた。原告代理人を務める水口洋介弁護士は「退職勧奨で労災が認められることは、非常に珍しい」と話す。上司は、この面談の席で、「勧奨を受け入れなければ、解雇されることになる」といった発言をしていたことが、認定の大きなキーになったようだ。

■ 「自主的な」退職を実現するためのノウハウは? 

 勧奨の場で、「解雇」という言葉を使うことはタブーだ。日本の労働法では、会社からの一方的な雇用契約の解消は、極めて例外的な場合でないと認められない。「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合」(労働基準法18条の2)に限って、解雇権の濫用として無効となる。だから、会社としては合意による「自主的な」退職を目指すことが筋なのだが、こうしたことが徹底されていなかったのだろう。

 今回は、日本IBMがかつて用いていたという、「退職勧奨マニュアル」の実物を入手した。本体は26頁、添付資料は13頁に及ぶ。中身を読んでみると、法に触れずに目的を達成するためのノウハウが、盛り込まれている。会社が「合法的なリストラ」について、どのような戦略を持っているのか、明らかにしていこう。

         

 このマニュアルは、日本IBMの管理職向けの研修で配布されたものだという。文体や書面の内容・形式などから考えると、社内で作成されたものではなく、外部のコンサルティング会社から提供されたもののようだ。

 まず、冒頭に「この小冊子は、司法の判断等を十分考慮して、法を遵守し、かつ企業の意図の実現を図るべく作成されております」と明記。「勧奨」とは、お奨め、お願いのことであり、これを行うこと自体は当然適法となる。

 民法や労働基準法の条文、雇用契約の概念図などを用いて、法的知識について解説がされており、過去の判例なども引用されている。また、面談の内容が録音されていることも想定しておくように、と書かれており、裁判で証拠となることも視野に入れている。法律の専門家が作成に関わっていることは明らかだ。

■ 会社は「厳しい現実」を伝える「よき理解者」になる? 

 マニュアルでは、退職勧奨は2つのポイントから進める、としている。1つは、その人の能力、会社の状況を考えると、現組織において職務の継続はできないという「厳しい現実」の指摘をすること。もう1つは、今後の転職相談には親身に接することで、「よき理解者」という関係を確立すること。まさに「アメとムチ」の考え方だ。そして、説得をするためには、相手の立場に立つことが重要ということで、リストラ対象者の一般的な心の動きまで図解化している。

 否定(私には関係ない)→抵抗(何で私が? 他に誰が? )→探求(職はあるだろうか? 当面の生活は大丈夫だろうか? )→決意(不安は残るが、チャレンジしてみよう)という形で、リストラ対象者の気持ちは揺れ動いていくという。担当者である上司には、これに対応する形で、「明確な説明」「十分な傾聴」「導き」「激励」を行うことが求められる。

 強制的、強迫的言動を面談で行うことは、裁判で敗訴する可能性を招くとして厳禁。NG発言の具体例としては、「君の席はない」「辞めなければ遠隔地転勤させるぞ」「無駄飯を食わせる余裕はない」といったものが列挙されている。さらに、対象者以外の他人の話をすることも、「泥沼化を招く」として、こちらも厳禁とされている。

 そして、対象者の性格をタイプ別に類型化し、大まかな対応方針を示している。これを見ると、退職勧奨を告げられた人々の反応は、本当に十人十色だ。

■ 「理屈型」には会社も苦労している

  従順型内面では、色々な葛藤があるので、十分話を聞き、受容する。その上で、こちらの考えを述べる。

 プライド型周囲の者達が見ている客観的事実に焦点を当て説明をする。

 何でもやらせてもらいます型その余裕もないことを説明する。気持ちは受け止めるが、残念ながら、その可能性がないことを指摘する。

 理屈型説得材料があれば繰り返し説明する。難しければ、「次回に」として立て直して再度試みる。

 愚痴型しばらく聞く姿勢。相手が繰り返しになったら、「こういうことですね」と対応。

 沈黙型・馬耳東風型「不明な点は質問して下さい」「是非考えてみてください」を繰り返す。「次回に意向を聞かせてください」と日時を具体的に約束するのも一方法。

 泣き型落ち着くまで待つ。いったん席を外す。会社の意向を明確に伝えて、「次回に意向を聞かせてください」と日時を具体的に約束する。

 感情型・怒り型ひたすら話しを聞いて受容する姿勢を示す。相手の言うことが支離滅裂な場合には、こういうことでしょうかと要約して尋ねて整理をしてやり、落ち着くのを待つ。

 「プライド型」には周囲からの目線を気にさせる。「泣き型・怒り型」など感情を表に出すタイプには、話を聴いて受容する姿勢を示す。「沈黙型」には現実的な期限を設けて考えさせる。人を動かす戦略をきちんと考えている様が窺える。ただ、「理屈型」には明確な対応法が書いておらず、会社としても苦労するようだ。

 また、面談の中で話が詰まってしまわないための準備も万全。対象者から想定される、ありとあらゆる質問や嘆き、反発の言葉が網羅されており、それに対する模範回答例が示されている。

 以下、質問や嘆き(下線部)と模範解答例(太字)の一部を紹介する。

■ 想定される、あらゆる質問・嘆き・怒りに対応

 「家のローンがまだ15年も残っているのです。一家心中をしろとおっしゃりたいのですか?」・・・・あなたの気持ちはよく分かります。皆色々な事情をかかえています。とどまっていることで解決となるとは言えないことを申し上げざるをえません。むしろ、今回の機会を生かしていただきたいのです

 「草むしりでも何でもやるから居させて欲しい」・・・・残念ながらそうした職務はないのです。社内での活用の機会に関しては、マネジメントとしても、十分検討いたしました

 「娘が近く結婚です。退職には合意いたしますから、××月までいさせてください」・・・・お気持ちはよく分かります。しかし今の状況は待ったなしなのです。皆、色々な事情を抱えておりますが、誠に残念ながら、例外を認めることができません

 「マスコミへ出します。外部へ訴えます」・・・・会社は合法的に進めております。会社は何ら傷つくものではありません。マスコミに持ち込むことで、会社の決定は何ら変わるものではないことをご理解ください

 「他にけしからん奴がいることを、ご存じないでしょう。上司がいるときといないときで、まるで態度が違うんですよ」・・・・そういう方には、これから会社としても、きちんと対応させていただきます

 「要するに、辞めろということですね」・・・・会社としては、あなたの職務の先行きが無いことを申し上げなければなりません。是非、この機会に「合意」をいただきたいのです

 「先日のお話を聞いてから、夜も眠れず、食欲もなく、メンタル障害となっています」・・・・先ずは、健康の回復が第一ですね。回復を確実なものにするために、お医者様の診断書を取り、会社としては、どのようなことができるか教えてください

 この他にも数十個の対応例がある。会社に対する攻撃から、泣き落とし、他の同僚に対する不満まで全方位で対応可能だ。これを事前に記憶していけば、勧奨を行う上司も失敗しにくくなるだろう。

 また、退職勧奨を実際に行うのは直属の上司。念には念を入れて、こうした人へのフォローも忘れない。「人員合理化に対する逡巡」という項目を設けて、リストラの最前線に立たされる社員からの反発を想定した問答集も作っているのだ。さすがにこうした役割を押し付けられることに対しては、強い葛藤と抵抗があるのだろう。

 「従業員の会社への忠誠心は長期安定雇用で支えられている。仮に現時点では貢献が低くても、過去はそれなりに貢献してくれたではないか」・・・・確かに雇用の安定は大切。しかし、必要なら断行すべきです。そうでないとグローバル競争に生き残れないし、ご本人のキャリアパス形成にもなれない。他社で活躍する場を提供すべきです

 「いったん退職したら、この社会では再就職は難しい。失業者はごまんといる。何とかならないのか」・・・・そのとおりです。でも、再就職支援サービスを提供される方々はまだ幸運なのです。だから、この機会に決断してもらうのがご本人のためでもあるのです

 「人事施策としてやむを得ないとしても、それは人事の仕事であって、われわれの仕事ではない。人事部担当者が責任をもって面談すべきだ」・・・・ご本人の仕事ぶりを熟知している上司でなければできません。人事は側面からサポートします

 「本人が了解しないかぎり、退職させることはできない以上、目標達成は難しい」・・・・会社の意図を明確に伝えて、相手の気持ちを理解して、再就職支援などを説明すれば100%達成はできます

■ 人事部はあくまで「側面から」サポート? 

 「人事は側面からサポートします」といって、矢面に立つことは回避しつつも、「頑張れば100%達成はできます」と、かなりの無茶振り。退職勧奨を行う直属の上司は、「安易な姿勢では使命を果たせません。目的達成への決意を」とマニュアルの中で厳命されているのだが、当人の抱える負担については、ずいぶんと軽い調子だ。

 それにしても、なぜこのようなマニュアルが外部に出ているのだろうか。マニュアルの冒頭には、「小冊子の保管・管理には細心の注意を払っていただきたくお願い申し上げます」とした上で、「①人の目に触れるところに放置しない  ②部下を始め、第三者にも開示しない ③会社の抽斗(ひきだし)に入れておく場合は、留守のときはカギをかける」と厳しい注意書きがなされており、当然、部外秘扱いである。

 どうしてこの資料が手元にあるのかというと、日本IBMの社内にある労働組合を通じて提供を受けたからだ。研修を受けた管理職が、労働組合に匿名でリークをしてきたのだろうと水口弁護士は推測している。

 「日本IBMは外資系だが、古くから日本で営業をしており、昭和40年代には従業員の9割が加盟する組合があった。現在では組合員は100人程度まで減ってしまっているが、そもそも外資系企業の中に、組合が存在すること自体が珍しい。こうした組合があるからこそ、内部の状況が分かるきっかけにもなる」

 こうしたマニュアルによって戦略的な退職勧奨が行われている以上、労働者も会社の手の内を理解した上で、行動をする必要があるだろう。具体的にはどうすればいいのだろうか。

■ すんなりと応じてしまっては、会社の思うツボ

 「労働者は、退職の意思がないことを、明確にメールや文書などで伝えることが極めて重要。説明だけ聞くという姿勢で2度くらい出席し、明確に退職の意思のないことを伝え、その後の退職勧奨の呼び出しには、もはや応じない。そして、『自分の業務に支障が出る』と伝える。これが、必ずやらなければならない対応」(水口弁護士)

 管理職は、会社から退職させる目標人数を課せられている。最初の段階で「この人は退職に応じそうだ」と目をつけられてしまったら、真っ先に結果を出すためのターゲットにされてしまう。早い段階で、明確に退職の意思がないことを伝えることが、交渉上大切になってくる。

 マニュアルに基づいてどのような切り返し方をされようとも、決して自分から「辞める」と言ってはいけない。「動かない杭」になることこそが、こうしたマニュアルに対抗する方法としては重要と言えるのである。

 では労働者が、最後まで完全に拒絶し続けた場合はどうなるのだろうか。         

 以前は、社内の組合に駆け込めば、そこで退職勧奨が止まっていたが、最近では解雇に踏み切るようになっているという。今回のマニュアルとは別の、日本IBMの社内資料にも、「退職しない意思が固いことが確認された場合は、それ以上のアプローチは不要」という冷徹な一文があった。

 しかし、能力不足による解雇は、認められるハードルが非常に高かったはずだ。労働者の同意がなければ辞めさせることが難しいからこそ、こうした自発的な退職を導くマニュアルが存在するのではなかったのか。

 「今や、会社は、『みせしめ』の解雇をしてくる。たとえ負け筋であったとしても、会社が解雇までして裁判で徹底的に争う、という強硬な姿勢を示せば、勧奨の段階でスムーズに事が運びやすくなるという効果を生むからだ。日本IBMの会長が、自ら『リストラの毒味役』と言ったこともあり、次々と新しい手法を導入し、先頭を切ってチャレンジしてくる」(同)

■ 労働者はどこまで闘うか、線引きが難しい

 現在の労働法の考え方からすると、労働者は、客観的合理的な理由と社会的相当性がある解雇事由がなければ、定年まで自分に仕事と給与を与えることを求めて、裁判を続けることも可能だ。ただ、必要とされていない会社と裁判闘争をして職場に復帰することが、本当に得策と言えるのかは難しいところ。

 マニュアルによると、他社の事例として、「今後、やりがいのある仕事を提供してもらえそうもない」「これまでの貢献について、感謝の気持ちを会社が示してくれた」「今後、これだけの割増賃金はないだろうと判断した」といった気持ちになると、対象者は退職勧奨に応じることが多いとされていた。

 しかし、会社がたとえ負け筋でも解雇にまで踏み切ってくるというのは、問題がないわけでもない。労働者からすれば、裁判を闘い続けることは大きな負担となるため、そのことがプレッシャーとなり、退職に追い込まれる形になる。これでは、事実上の「クビ切り」と変わらない状態を作り出すことも可能となる。

 日本IBMは、取材に対し、「当社では、急速に変化する市場ニーズに対応するため、常に最適なスキルと人材の配置を図っています。 社員それぞれのキャリアは社員の選択によるものです」とコメントしている。あくまで合意の上で、社員が自ら選択しているとの説明だ。

 会社が仕掛けてくる、様々な「合法的」リストラ戦略に対して、どこまで闘うのか、どのタイミングで決断をするべきか。働く側は、精神的にも金銭的にも難しい選択を迫られることになる。

 

関田 真也

(以上、『東洋経済オンライン』より転載了)

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