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2016年1月 4日 (月)

軽減税率は低所得層の味方なのか?

軽減税率は低所得層の味方なのか?
THE PAGE 1月3日(日)11時0分配信    
連載第2回は、行動経済学的視点で「軽減税率」について考えてみたいと思います。生活必需品の消費税が10%になる際も8%のままは、うれしい気がしますが、実際は誰にとっていちばんありがたいことなのでしょう? 経済コラムニスト・大江英樹さんが解説します。 【連載】行動経済学」で斬る!
時事問題 .
軽減税率は低所得層の味方なのか? 消費税が10%になっても、生活必需品である食料品は8%のまま。これは誰にとって得なのか?
そもそも軽減税率って?  
現在、消費税は2014年の4月に5%から引き上げられて8%になっています。この8%の消費税がさらに17年4月から10%に引き上げられることが予定されています。消費税の増税というのは消費者にとって負担が大きくなることですから生活に大きな影響を与えることは言うまでもありません。そこで消費税を上げるにあたって、少しでもその負担が小さくなるようにということで考えられたのが「軽減税率」と言われるものです。これは食料品などのような一定の生活必需品に絞って税率を上げないというものです。これについてはいろいろな意見がある中で15年の12月に自民党と公明党との間で導入にあたっての合意がなされました。  
ところがどうもこの「軽減税率」、野党だけではなく自民党の間にも効果を疑問視する声が出てきています。そこで、ここでは政治的な駆け引きや思惑といった話ではなく、純粋に経済的な面から見た軽減税率の問題点について考えてみたいと思います。   .
軽減税率は低所得者層に有利ではない  
一般的に消費税には逆進性があると言われています。例えば所得税などの税金を納める場合には、所得ごとに税率が決まっていて所得の多い人ほど税率が高くなっています。つまり収入が多いお金持ちの人からはたくさん税金をとりましょうということです。これは「累進性」と言われています。これに対して消費税は所得に関係なく一律ですから、結局は所得の少ない人の負担が大きくなってしまうと考えられ、「逆進性」があるというふうにみなされているのです。特に食料品などは生活していく上では必須のものであり、お金持ちも低所得者層も等しく使わなければならない費用です。こうした食料品に使うお金の割合のことをエンゲル係数と言いますが、低所得者層ほどエンゲル係数が高い、すなわち支出の中に占める食費の割合が大きいということが知られています。  
そこで食料品にかかる税率を低くすることで低所得者層の負担を軽くしましょう、というのがこの軽減税率の主旨なのです。そしてこの軽減税率の導入には世論調査で74%の人が賛成と言っています。(15年10月25日付日経新聞・テレビ東京調査)  
ところが多くの経済学者の人たちがこの軽減税率に反対しています。理由は低所得者層にはちっとも有利にならないということだからです。これは一体どういうわけでしょうか?たしかに先ほどのエンゲル係数の話などからすれば食料品などにかかる税率を軽減することは低所得者層の負担が軽くなるように思えます。ところがエンゲル係数というのはあくまでも支出に占める“割合”の話であって、絶対額で言えば、高所得者層の方が食料品にたくさんのお金を使っています。実際に政府の試算によると「酒類を除く食料品」を対象として軽減税率を実施した場合、年収176万円の層においては年間の軽減額が8,470円ですが、年収1,077万円の世帯では軽減額が1万9,750円となっており、何と高所得者層の方が2倍以上も負担が軽くなるのです。(15年5月22日 与党税制協議会資料より)
軽減税率よりもむしろほかの方法、例えば財務省が当初掲げていた「消費者が対象商品を購入する際に、『マイナンバーカード』をかざし、消費税2%分相当の『還付ポイント』を取得して、そのポイント相当額が一定の限度額の範囲内で各個人の口座に事後的に還付される」という方法やもっとシンプルに低所得者層に対して一律に定額の給付金を支給する方がよほど低所得者対策になるのです。         
なぜ軽減税率に賛成の人が多いのか?

 にもかかわらず、なぜ軽減税率が74%もの支持を集めているのかということですが、これは行動経済学で考えると理由がすぐにわかります。一つは「アンカリング効果」と呼ばれているものです。人間は一旦示された数字を基準に考えるということです。例えば、安い価格で値引なしの場合と、高い価格だけど値引きがある場合だと、たとえ同じ金額だとしても後者の方がお得感を強く感じてしまうのです。

 消費税10%だけど食料品だけは軽減税率で8%ということになれば、2%ダウンするということから何か得をした気持ちになるからです。でも本当に大切なのは実際の金額です。食料品を売っている人たちが2%分をわからないように値上げすることだってあるでしょう。10%⇒8%という変化だけにこだわると判断を間違えてしまいます。

 二つ目は「認知バイアス」です。前述の「給付金を支給する」という方法を取るとイメージとしては“バラマキ”という印象が強くなります。ところが軽減税率だって購入者に補助金を出しているわけですから、これも紛れもない“バラマキ”です。しかも高所得者にメリットがある、もっと性質の悪いバラマキなのです。ところが以前に「定額給付金」が支給されたときにバラマキ批判が強かったために「給付金はバラマキ、軽減税率は弱者救済」というイメージにとらわれてしまうということなのでしょう。

 面白いのは軽減税率の導入の目的が ”増税による国民の負担「感」の緩和”となっていることです。(2015年11月3日 官房長官談話)“負担”ではなく、“負担「感」”の緩和なのです。実際に低所得者の負担が軽くなるということよりも“何となく得をした”感を醸し出すという意味では軽減税率は行動経済学から考えると効果的な方法かもしれません。

(経済コラムニスト・大江英樹)

(以上、転載了)

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